[東京 27日] - 新型肺炎(新型コロナウイルス)の影響が甚大になってきた。中国政府は1月24日から国内の団体旅行を、27日からは海外への団体旅行も中止するよう命じた。
1月24日(大晦日)から1月30日までの予定だった春節に伴う中国の休日は、中国国営中央テレビ(CCTV)によると、2月2日まで延長された。その前後の40日間に、中国人は延べ30億人も大移動するとみられていた。団体旅行を制限したことの影響は大きい。
訪日する中国人のうち、団体旅行客は2019年に26.7%を占めていた。団体旅行以外の個人旅行客にも中止・変更の影響は出るだろう。
2020年に予想されるインバウンド需要は、全体で約5兆円(2019年4兆8113億円)とみられる。その中で中国(除く香港)の需要は約4割の約2.0兆円(2019年1兆7718億円)を占める。年間で計算すると、中国のインバウンドが半減するとすれば、実質国内総生産(GDP)で0.2%ポイントの押し下げになる。もっとも、数カ月で鎮静化すれば、インパクトはその何分の1かに小さくなるだろう。
最も心配されるのは、新型肺炎の悪影響が長期化して、東京五輪・パラリンピックに響いてくることである。期間中は中国からも大挙して観光客が来ることが期待される。2019年の中国からの訪日客数は959万人で、1人当たり21万円を支出した。それが増加するのではなく、何割も減少することになると、日本の消費産業に対する打撃は相当に大きい。
現時点で筆者は、東京五輪までには新型肺炎の騒ぎが鎮静化して、悪影響はそれほど拡大しないことをメインシナリオにしているが、事態はまだ流動的である。
<SARSの経験>
私たちは新型肺炎の感染拡大をみて、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の騒ぎを思い出す。あのときも、先行き何が起こるのかがわからず、金融市場では疑心暗鬼が膨らんだことを思い出す。もしも、日本に肺炎が上陸して、パンデミック(大流行)になったらどうしようという不安心理の拡大である。その当時は、事態を過大評価していたように思える。
当時、SARSは早々に鎮静化した。大騒ぎになったのは4─5月で、6月には落ち着きを取り戻した。記録では、SARSの発生は2002年11月で、終息宣言が2003年7月になっている。よく調べると、世界保健機関(WHO)が世界に警告を発した3月12日から騒ぎが大きくなり、6月3日に中国での最後の発症事例が確認された後、再発しないのをみて7月5日に終息宣言が出された。本当に大騒ぎになったのは約2カ月間ということになる。
今回、中国での新型肺炎の感染者が発見されたのは、2019年12月8日とされる。それが12月末ごろから話題になり、1月中旬に日米の株価を下落させるまでに大きな脅威になった。もしも前回同様に約2カ月で鎮静化するとなると、それは2020年4月ごろになるという計算である。それならば、東京五輪への悪影響は小さいとみられる。
なお、インフルエンザの場合はどんなに強力な感染力であっても、それほど大騒ぎにはならい。みんな数週間で感染が収まることを知っている既知のリスクだからである。
新型肺炎は未知のショックだから、人々はその不確実性におびえる。さらに、人から人へと簡単に感染するかもしれないという疑心暗鬼や、中国政府の対応が感染拡大に対して後手に回ってしまうかもしれないという不安心理が加わって、リスクの把握ができないという結果を招いているようにもみえる。
<頼みの綱の中国人訪日客>
中国人の訪日客は頼みの綱だった。中国の団体旅行の禁止や、国内移動の制限はいつまで続くのだろうか。仮に東京五輪の手前で非常態勢が解除されても、すぐに日本への訪日客数が元に戻るかどうかもわからない。通常、旅行の手配は2─3カ月前に行われるからである。従って、非常態勢からの脱却は、7月の2─3カ月前の2020年4─5月までに行われてほしい。
また、最近の訪日外国人の状況からすると、今回の中国の肺炎はさましく最悪のタイミングであった。日韓関係の悪化や香港情勢の緊迫化という2つの事件を受け、2019年の訪日外国人数は韓国からは前年比25.9%減と大幅に減り、香港からも伸び率が鈍化した。2019年の3188万人(前年比2.2%増)という数字は、2つの要因がなければもっと伸びていたに違いない。ラグビーワールドカップの追い風に支えられ、加えて中国人観光客の伸びに助けられていた。
2020年に入ってからは、ラグビーワールドカップの効果はなくなっているので、中国人の訪日客だけが頼みの綱になっている。そうした苦しい局面での新型肺炎であった。
4月には、習近平国家主席が国賓として来日する。そこまでに新型肺炎が鎮静化していれば、日本政府は訪日客の促進策についての議論を進めることもできよう。
<中国経済を減速させる要因>
新型肺炎の打撃は、インバウンドだけに止まらない。中国経済の減速を通じた日本経済への影響がより警戒される。人口1100万人の武漢市が封鎖されると、中国経済にも打撃は大きいはずだ。武漢市のある湖北省は人口5902万人で、工業生産額の約2割を自動車関連産業が占めている。
日本貿易振興機構(JETRO)によると、武漢市には約700人の日本人が駐在しており、進出している日本企業は自動車など約160社に及ぶ。すでに中国全土から多くの駐在員やその家族が帰国しており、日本から中国への渡航もかなり慎重になっている。日本企業への影響は必至とみてよい。
マクロ的には、中国経済の減速が、日本からの輸出減少につながる点が不安である。現地に進出した企業の生産停滞が、日本から輸出している部品や素材の需要を減少させることもあろう。貿易統計によると、日本から中国向けの実質輸出は3四半期連続プラスで推移(季節調整値)してきた。次世代通信5G需要の立ち上がりが、電気・機械や生産用機械の輸出を最悪期から脱出させていたところだった。せっかくのその流れが阻害されることになれば、新型肺炎の影響は誠にタイミングが悪いと言わざるを得ない。
中国にとっても、1月15日に米中通商協議の「第1段」合意が結ばれて、これから輸出が改善していきそうな矢先であった。中国経済の低迷は、米国からの輸入額を減らすことにもなりかねない。米中貿易の不安定要因にも発展していく可能性はある。
そして、中国経済がすう勢的に悪化していけば、東京五輪終了後の日本経済も長期にわたって懸念材料となっていくだろう。
筆者は、新型肺炎が過大評価されることをどちらかというと問題視しているが、その一方であまり過小評価もできないところもあって、非常にやっかいな存在だと思っている。
(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。
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編集:田巻一彦
2020-01-27 06:28:00Z
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