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焦点:市場が織り込む米国「マイナス金利」、特効薬か劇薬か - ロイター (Reuters Japan)

[ニューヨーク/シンガポール 12日 ロイター」 - 米国がマイナス金利を採用するなど、かつては想像すらできなかった。だが、新型コロナウイルスによって状況は一変した。

米連邦準備理事会(FRB)はマイナス金利導入の可能性をほぼ否定してきたが、パンデミック(世界的な大流行)が経済・金融市場に広範な影響を与えたことで、投資家はドラスティックな政策変更が行われた場合の影響を真剣に考えざるを得なくなっている。写真はニューヨーク証券取引所。4月26日撮影(2020年 ロイター/Jeenah Moon)

米連邦準備理事会(FRB)はマイナス金利導入の可能性をほぼ否定してきたが、パンデミック(世界的な大流行)が経済・金融市場に広範な影響を与えたことで、投資家はドラスティックな政策変更が行われた場合の影響を真剣に考えざるを得なくなっている。

バンク・オブ・アメリカ・セキュリティーズが1年物米スワップ金利のオプション取引に基づいて分析したところでは、政策金利のフェデラルファンド(FF)金利が12月末までにゼロを下回る確率は23%と、先週の9─10%から上昇している。

FF金利先物も、2021年6月時点でFF金利が約1ベーシスポイントのマイナスになると予測する水準となっている。パンデミックの打撃により米国経済が大恐慌以降で最も急激な後退に向かっているためだ。

トールバッケン・キャピタル・アドバイザーズのマイケル・パーベス最高経営責任者(CEO)は、「(マイナス金利は)机上の空論から明白な可能性へと転じた」と言う。

パーベス氏自身は依然として、FRBが実際にマイナス金利に踏み込む可能性は「相当に低い」と考えている。だが、前例のない値動きからは、市場がこれまでは考えられなかった可能性を想定しており、また、銀行の収益悪化、国債利回りのマイナス、さらには金融市場の混乱や資本流出に至るまで、投資家が幅広い結果に備えていることをうかがわせる。

グッゲンハイム・パートナーズでグローバル最高投資責任者を務めるスコット・マイナード氏は、FRBによる債券購入により、ベンチマークとなる米国債利回りが前例のないマイナス領域に入っていく可能性があると見ている。

グッゲンハイム・パートナーズのウェブサイトに示された予測では、ベンチマークとなる10年物米国債の利回りが2021年末時点でマイナス0.5%になっている。

投資家が懸念しているのは、米国がマイナス金利の領域に踏み込めば、近年の欧州・日本におけるマイナス金利に比べ、金融市場を混乱させる副作用が大きくなるのではないかという点だ。

三井住友信託銀行マーケット・ストラテジストの瀬良礼子氏は、米国でマイナス金利が導入されれば、日欧の場合より大きな混乱をもたらす可能性があると指摘する。企業が資金調達をクレジット(社債)市場に頼っているため、証券の価格を混乱させる恐れがあるという。

<パウエル議長のけん制>

FRBの政策金利の下限はすでにゼロになっている。マイナス金利は一般に、経済成長をさらに刺激するための緊急手段と見られている。

だが、欧州と日本では数年にわたりマイナス金利政策が続いているものの、特効薬としての成果は出ておらず、米国がこれに追随することに対しては懐疑的な見方が多い。

ジェローム・パウエルFRB議長は3月、マイナス金利が経済に好影響をもたらす可能性は低いと述べた。投資家は、13日の講演でも同議長が同じメッセージをさらに強調するものと予想している。

貯蓄が好まれている国では、マイナス金利の導入は、貸付による収益という点で金利差が頼みの綱である金融セクターに打撃を与えるだけでなく、預金者を犠牲にすることになり、そうした動きに伴う政治的な反発も対処しにくいものになるだろう。

とはいえ、新型コロナウイルスによるパンデミックが与えた経済的なダメージにより、FRBはすでに過去に例のないさまざまなプログラムの展開を余儀なくされている。社債購入プログラムを拡大し、一部の「投機的」格付けの債券まで購入するようになったのはその一例だ。

アセットマネジメントOneのファンドマネジャー、竹井章氏は、マイナス金利の導入はありうるとみる。同氏は米国債に対し強気で、ベンチマークとなる10年物米国債の利回りがゼロになる可能性があると考えている。

マイナス金利政策は、多年にわたり、資金を必要とする人への融資によって利益を得てきた層からの実質的な所得再配分につながると、竹井氏は言う。

<債券にプラス、株式は不透明>

超低金利の状況により債券需要は高まっている。表面利率が高いものほど魅力を増している。

債券需要の増加は利回りの低下につながり、これが要因となって債券と比較した金の魅力が高まり、金価格の上昇がすでに始まっている。金現物価格は今年に入って約12%上昇した。

それだけでなく、HSBCグローバル・アセット・マネジメント香港のアジア太平洋地域債券部門最高投資責任者のセシリア・チャン氏によれば、米国でマイナス金利が導入されれば、より高い利回りを求める投資家の動きにより、米国から資金流出が起きる可能性があるという。

チャン氏は、「マイナス金利が米国で長続きするとは思っていない」と語る。「(とはいえ)アジアのクレジット市場に対する影響は恐らくポジティブなものだろう。アジアの債券は預金金利に比べて、かなり良好な利回り上昇を見せている」

株式市場に関してはマイナス金利の影響はさほど明確ではない。現在・将来の企業収益をめぐる不確実性が極端に大きいためだ。

PGIMのクオンツ株式・グローバル・マルチアセット・ソリューション事業部門であるQMAでポートフォリオマネジャーを務めるジョン・プラビーン氏は、マイナス金利で圧迫される金融セクターから、高配当の傾向を示す製薬、公益事業、通信などへ資金移動が加速する可能性があるという。

だがプラビーン氏は、近日中に米国で金利がマイナスになる可能性は低く、もしそうなれば不吉な兆候になると考えている。

「FRBが実際にマイナス金利に踏み切るとすれば、それは他に採りうる手段がなくなったという兆候だ。しかし明らかに、それは実際の状況とは異なる」

(翻訳:エァクレーレン)

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