日経平均株価の上昇が止まらない。これは市場関係者の間でも想定外だった。6月10日にフィデリティ投信が行ったメディア向けブリーフィングで、同社副社長の丸山隆志運用本部長は、次のように話した。
「日経平均株価は非常に強い。5月中旬以降、世界の株式は非常に力強く上昇している。日経平均も2万円は超えないだろうと考えていた市場参加者は多かった。その中で、ここまで上昇してきた」
二番底の懸念もささやかれる中、日経平均株価は上昇を続け、6月8日には2万3000円を超えた。当初、3月の株価の底で買ったのは誰か。丸山氏は日銀だと話す。日銀は3月16日に予定より前倒しで金融政策決定会合を開き、ETFの年間買い入れを従来の2倍まで拡大することを決定した。3月は、1回あたり2000億円規模の買い入れを断続的に行った。「日銀が買ったETFだけが上がり、ほかは下がるという不思議なことが起きた日だった」(以下、発言は丸山氏)
マザーズ市場については、日経平均よりも早く年初来高値まで戻ったが、これは「国内の個人投資家が戻りを牽引してきた」と丸山氏は見る。
初期の戻りを牽引したのが日銀と個人投資ならば、直近の上昇を後押ししているのは遅れてやってきた海外投資家のようだ。「外国勢は、割と最近だ。統計で見ると1週間くらい前から入ってきている」
市場関係者にとっても想定外だったために動きが加速した面もある。4月からは海外投資家を中心に先物を売る動きが顕著だったが、「株式市場に懐疑的な見方をしていた人も見直しを迫られた」からだ。日経平均を空売りしていた人たちは買い戻しを迫られ(ショートカバー)、これが上昇を後押しした。6月12日には、先物とオプションの精算日であるメジャーSQも迫っており、さらに変動が予想される。
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経済指標のサプライズ
こうした状況の背景には、エコノミストなどの想定よりも早く経済が回復している点がある。自動車販売状況で見ると、中国では4月の販売台数が22カ月ぶりに前年同月比でプラスとなった。米国でも、5月の販売台数は予想以上の回復だった。「当初は4−5月の販売は7〜8割落ち込むという見立てもあった」
6月5日に発表された重要経済指標である、米国雇用統計も大きなサプライズだった。4月に14.7%まで達した失業率は、5月はさらに悪化すると予想されていたが、13.3%とポジティブサプライズとなった。カナダの雇用統計でもポジティブサプライズが出ており、「4月に底を打って、5月に戻り始めているという解釈が確からしくなっている」。
時間従業員の労働時間についても、4月に底打ちし5月からは戻り始めている。丸山氏によると、「人々がどこで過ごしているのかを匿名でチェックするスマホアプリでも、同じようなトレンドを示している」という。「まだまだ先だと思われていた、バック・トゥ・ノーマル、正常化への道が早まっている」
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コロナ第二波の懸念
株価は急速に回復したものの、足元の景気は決していいわけではない。新型コロナが抑え込まれ、コントロールされていることが、株価を支える前提条件だ。日本、米国、中国では感染は制御されているように見えるが、世界全体では増え続けていることには注意が必要だとした。また、丸山氏は、メインシナリオとして2020年中に日経平均2万4000円到達を挙げたが、楽観は禁物だ。
感染第二波が起きると、揺り戻しが生じるというサブシナリオがある。ただし二番底は浅く、「第一波のようなパニック売は起こりにくい」とした。
さらに、第二波以外に3つのリスク要因を挙げた。一つは円高だ。一時ひっぱくしたドルだが、米FRBの金融緩和により現在は「ドルがじゃぶじゃぶ」な状況。ドル安が起き、それによる円高になると、日本経済にとっては輸出企業中心に逆風となる。
2つ目は失業率だ。5月の米国失業率13.3%は想定よりは良かったものの、小さな数字ではない。「簡単には戻らない。社会の不安定化につながる。サービス業が効率化するほど、大量の人員を必要とする産業が少なくなる。仕事がなくなることによる不安定化は考えておかなくてはいけない」
3つ目は、米中貿易戦争に代表されるブロック経済化への流れだ。「今後さらにグローバル化が進むとは考えにくい。ネガティブになり得るシナリオとして考えておく必要がある」
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